人間とは、この世界で最も弱い存在のことを指す。
立派な角も牙も爪もなく、強靭な脚力を持っているわけでもなく、特別腕力があるわけでもなく。
俊敏性で優れているのでもなく可視野が広いというわけでもなく。
何か超感覚的なものを有しているわけでもなく、魔力が特別強いわけでもなく。
苦もなく空を飛べるわけでもなく、いつまでも水に潜り続けられるわけでもなく、地の中を自在に行けるわけでもなく。
生物として圧倒的に他の存在よりも下等だった人間が、他の種族――それぞれ獣人種や鳥人種などという呼び名はあったが、人間以外の彼らをまとめて『主』と呼ぶ――に従属させられるのに不思議はないだろう。
ただし従属といっても、それほど酷い話ではなかった。
人間以外の種族は、人間を奴隷としてではなく、従者として扱うことが多かったからだ。
実際、数を揃え、上手く指示を与えて使いこなせれば、人間以上に集団行動に長けた存在はいない。
素早く建物を建てることも可能。
重いものを運ぶことも可能。
厄介な『主』を倒すことも可能。
丁重に扱えば相談役として優れた知性を発揮することもある。
人間から見ても、身体的に『主』に劣るのは紛れもない事実だ。
ゆえに優れた『主』の従者となることで、人間を嫌う『主』の一方的な殺戮や蹂躙から逃れようとするのは不思議なことではない。むしろ自然なことと言える。
この世界において、『主』が人間に対する態度は様々だったが、おおまかに言えば良好な関係を抱いていたと言える。
そんな中で、ヒトが特に主人としたい『主』は、『主』という括りの中でも別格の存在であった。
いかなる『主』が束になっても叶わない、いわばこの世界の最強種。
ゆえにその従者となれれば、それは最高の庇護を得たことになる。
だから人間たちはその存在を求め、従者になりたがっていた。
その存在――【龍族】こそ、最上の『主』と呼ばれている。
これは、主と従の物語。
人と龍が紡ぐ物語だ。
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