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  <title>空を見上げて</title>
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  <description>創作系サイト【空之彼方】小説掲載用ブログ</description>
  <lastBuildDate>Tue, 07 Jul 2009 13:56:09 GMT</lastBuildDate>
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  <copyright>© Ninja Tools Inc.</copyright>
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    <item>
    <title>空の烙印３１</title>
    <description>
    <![CDATA[<p>　自信満々に「倒せる」といっただけはあり、少年は圧倒的な力で影を倒し続けた。<br />
<br />
　爪や牙というような『主』独特の武器は使わず、単純に手で相手を掴み、引き千切るようにして敵を戦闘不能に追い込んでいく。首を引っこ抜かれた影の人形はすぐに形を崩して消えてしまい、手足をもがれた人形は手足が再生する前に少年に頭を踏み潰され、やはり消滅していった。<br />
　刃と化した腕を振るって斬りかかってくる人形の攻撃を、ものともしない少年は圧倒的だった。すでに十数匹近くは倒しているが、少年はまだかすり傷一つ負っていない。全て紙一重で避けている。<br />
　戦い自体は余裕だった。だが、不意に少年が顔をゆがめる。<br />
「きりがないなあ&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　数が多すぎるのだ。倒しても倒しても後から後から押し寄せてくる。別に体力を心配しているような口振りではなかったが――面倒だという気分なのだろう。<br />
　その少年の後ろで戦況を見守りながら、セルトは思考を巡らせていた。<br />
（とりえあずここは封じたとはいえ――残り二つの道は閉じれていない。中央道を挟んで向こう側はアルブラス様達が対処しているだろうし、中央道は町の他の人たちがふさぐはず&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;なんとか一般市民が逃げるだけの時は稼げるはずだけど&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;）<br />
　嫌な感覚が消えてくれない。何か致命的な事態になりかねない気がしていた。<br />
（アルブラス様は戦いにおける思惑は私なんかよりずっと深い&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;速さだけの人形なんて問題なく払えるはずだけど&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;問題はやはり、中央道の人達）<br />
　中央道は広い。どの程度の戦力が集まるかはわからないが、あそこを守るのは至難の技だ。しかも、所属するグループが違う場合、指揮系統が成り立たず、自壊する可能性もある。<br />
（実際にどうなっているのか、情報がほしい&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;っ！）<br />
　いかに策略家として名を馳せていようと、情報が全く手に入らない状況下ではどうしようも出来ない。<br />
　せめてあとここに一人人員がいれば、その人物を確認に走らせることが出来たのだが――少年は敵を食い止めているし、セルトは一人で行動できるほどの身体能力がない。少年は実にあっさりと敵を滅しているが、それは少年の力が反則的に高いのであって、セルトに限らず戦闘能力を持たない一般市民にとってはこの『影』は驚異だ。多少戦闘の心得があるものでもどうか、というくらいなのに。<br />
（力はそうでもないように思えるけど&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;速すぎる）<br />
　その上この数だ。普通、人間は一体に対して多数をぶつけることで、他の種族との間にある身体的な差を埋めている。だが、この人影のように数が多く、ほとんど一対一の状況になると、ほとんどの種族に対して人が持つ利点というモノを打ち消されてしまう。<br />
　厄介な敵としか言えなかった。<br />
　どうすることも出来ず、立ちつくしていたセルト。その耳に、大きな爆発音が響いてきた。<br />
　思わずそちらの方を見ると、森の向こう側、遠くで黒煙が上がっていた。<br />
（あっちは確か中央道付近&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;誰かが魔法を使ってるのかな&hellip;&hellip;それにしてもあんな大きな規模で振るうなんて&hellip;&hellip;）<br />
　そんな風にセルトが考えている中、影の攻撃を身軽にかわしながら上がる黒煙を見ていた少年は一人合点がいったように頷いた。<br />
「あー、そうか、魔法か。そんなのもあったっけね」<br />
　とんっ、と軽やかに地面を蹴った少年はセルトのすぐ前まで後退してきた。<br />
　さらに脇にあった大木を片手で引っこ抜き、追い縋ろうとしていた影達にぶつけて影を払う。<br />
　少年がどういうつもりかわからないセルトは焦って声を上げた。<br />
「ちょっと！　私のところまで下がられたら戦闘に巻き込まれてしまうでしょう！？　後退したいなら先に宣言してくれないと&hellip;&hellip;」<br />
　少年が後ろに下がった分、自分が下がろうとしたセルトだが、そのセルトを少年が止める。<br />
「大丈夫。そこにいて」<br />
　言い置き、少年は大木を乗り越えようとしていた影達に掌を向けた。<br />
「調整がうまくいくかどうか、自信がない」<br />
　その掌が光に包まれる。それが魔法発動の予兆であることをセルトは知っていたが、調整がうまくいくかどうかわからないという少年の言葉に一抹の不安を覚えた。とっさに止めようと口を開いたその瞬間。<br />
<br />
――轟音が天を劈く。<br />
<br />
　凄まじい爆風と閃光が轟き、世界を白に染め上げる。セルトは少年の背に庇われながら、何が起こっているのか全く理解できなかった。<br />
　足元が激しく揺れ、体勢を崩した拍子に少年の背中に縋りつく形になってしまったが、それを気にする余裕もない。必死に少年の背にしがみつき、暴風と激震が通り過ぎるのを待たなければならなかった。<br />
　瞼を閉じていても視界を白く染め上げた閃光が去ったことを感じ、セルトは恐る恐る目を開く。あまりに光が強かったからか、目の奥が傷んだ。<br />
　そして、目に入ってきた光景は、信じられないことになっていた。<br />
　先ほどまで鬱蒼とした森が左右にあったはずの小道は、大きなクレーターによって周りの森ごと消えていた。大きく陥没した穴が目の前に広がっていて――黒い影達はずっと先に残った小道で戸惑ったように止まっている。<br />
　もちろん、爆発に巻き込まれた影達は塵一つ残らず消滅していた。<br />
　少年が魔法を使ったのは間違いないが、それにしてもこの規模は凄過ぎる。セルトはしばらく開いた口が塞がらなかった。<br />
「な、なんてむちゃくちゃな&hellip;&hellip;」<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　少年は無言。身動き一つしない。それを訝しく思ったセルトは、少年に向かって声をかける。<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;あの&hellip;&hellip;？」<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;つかれた」<br />
　言うが早いか、少年はどっさりとその場に腰を降ろしてしまった。それはほとんど倒れるのと同じくらいの勢いだ。<br />
「え、ちょ、どうしたの！？」<br />
　驚いてセルトが尋ねると、少年は首を後ろに向けるのも億劫そうにセルトの方を見やる。<br />
「使った魔力が多すぎて&hellip;&hellip;消耗した。無理。動けない」<br />
「はいぃ！？」<br />
　セルトは思わず素っ頓狂な叫びをあげてしまった。<br />
　少年が動けないとなると、戦闘力をまるで持たないセルトはどうしようもなくなる。幸い今の一撃で完全に道が途切れてしまったからか、影の人形達はこの道を放棄して別の道から街へと向かうつもりのようであることが救いだ。<br />
　これから不測事態が起こった時のことも考えると、自然に回復するのに任せるわけにもいかない。<br />
　取るべき対処法を考えたセルトは、素早く走り出した。<br />
「待ってて！　いまお酒を持ってくる！」<br />
　この世界における酒は、気力や魔力を補充するためにも使われるれっきとした魔法薬だ。最初にセルトが少年に出会った際、酒を飲ませることで気力の回復を促したのと同じ原理だ。魔法によって消耗した魔力を補充すればまた動けるようになるはず。<br />
「待って」<br />
　走り去るセルトに少年がそう呼びかけたが、セルトの耳には届かなかったらしく、そのまま走り去ってしまっていた。<br />
　残された少年は力尽きたように地面に仰向きに倒れ、呟く。<br />
（&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;街はまだ安全かもしれないけど、もしもあの人型が街に到達してたらどうするんだ&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;その可能性はあるのに）<br />
　うつぶせに倒れたまま静かに溜息を吐いた少年は、少し考えた後――決断した。<br />
「仕方ないな&hellip;&hellip;主に先に死なれるわけにはいかないからね」<br />
　すっ、と瞼を落とし、数秒後に再び瞼が開く。少年の左の瞳が、燃えるような赤色に代わり――<br />
<br />
　瞳孔が縦に割れていた。<br />
<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>オリジナル『空の烙印』</category>
    <link>http://soranonakade.blog.shinobi.jp/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%80%8E%E7%A9%BA%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0%E3%80%8F/%E7%A9%BA%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0%EF%BC%93%EF%BC%91</link>
    <pubDate>Tue, 07 Jul 2009 13:56:09 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>空の烙印３０</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
　道を塞ぐためにまた例の移動法でその道にやってきたセルトと少年。<br />
　幸い、まだ影の人形達はこの道を通っていないようだった。<br />
　少年をこの道に配置したセルトは、次にやるべきことを考える。<br />
　ここで少年が戦う様をただ見ているのはあまりにも効率が悪い。だからといって別行動を取ろうにも、少年がいない状況で人形に出くわせば、戦闘能力をまるで持たないセルトは間違いなく死ぬ。<br />
(ここで見ているしかない&hellip;&hellip;)<br />
　もしもイレギュラー的な動きがあった場合、対処は必要になる。<br />
　だからここを暫くは動けないとセルトは感じた。<br />
　とりあえず、いまの段階で打てる手は全て打つ。<br />
「道の両脇に立っている樹を倒せる？」<br />
　そう尋ねたセルトに対し、少年は即座に応じる。<br />
「倒せるけど？」<br />
「じゃあ倒した樹でこの道を塞いで。細い道だから簡単に塞げると思う。運が良ければそれだけであの影の進行を止めることが出来るから」<br />
「わかった」<br />
　少年は無造作に木々に近付き、これもまた無造作に手を横に一閃する。木の幹が抉れて飛び、自重に耐えきれなくなった幹が折れて道に横たわる。<br />
　そうやって次々樹を倒していく少年。相変わらずの無茶苦茶ぶりにセルトはため息を禁じ得ない。<br />
(&hellip;&hellip;アルブラス様なら似たようなことをやれるだろうけど)<br />
　契約を解消する、と冷たく言われた時のことを思い出すと胸が苦しくなる。<br />
　少年の言う通りの意味だったとしても、契約解消を突き付けられたときの衝撃が和らぐ訳ではない。<br />
　アルブラスが自分のことを家族のように思っていてくれたということは嬉しいが、同時にセルトは従者としてアルブラスに仕えることを誇りに、嬉しく思っていたのだから。<br />
　肉体労働には適していない脆弱なセルトの体。魔力が存在するこの世界では、肉体的な弱さは魔力を使えばある程度克服することができる。<br />
　しかしセルトの場合それが出来なかった。セルトの体は、なぜか魔力による強化を受けつけず、肉体的なレベルの身体能力しか発揮できなかったのだ。<br />
　だからセルトは、『役立たず』の烙印を押されて娼館に捨てられても文句は言えなかった。<br />
　そんなセルトを捨てることなく、彼女の才能を活かす方面で使ってくれていたアルブラス。セルトは彼に言葉では言い尽くせないほど感謝していて、従者として仕えることでその恩を返したいと思っていたのだ。<br />
(あとで話をしにいこう&hellip;&hellip;)<br />
　今度は冷静に。例え従者に戻されることはなかったとしても、別の形で恩を返すために。<br />
　まずはこの突然生じた危機を乗り越えるために、セルトは考えを巡らせ始める。<br />
　それとほぼ同時。<br />
　あの黒い人影のようなものがこの道にも現れた。道は先ほど少年が倒した木々で塞がれていたが、それを乗り越えて、あるいは切り裂いて進行を止めようとしない。さすがに塞いだだけで通らなくなるということはなかったようだ。<br />
　少年はセルトの半歩前に立ち、落ち着いた口調でセルトに向けて言う。<br />
「そこにいて」<br />
　それだけ言うと少年は一気に駆け出し、黒い人影に向かって突撃をかけた。<br />
<br />]]>
    </description>
    <category>オリジナル『空の烙印』</category>
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    <pubDate>Wed, 29 Apr 2009 12:28:15 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>空の烙印２９</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
　悲鳴や怒号が風に乗って運ばれてきている。<br />
「くっ&hellip;&hellip;遅かった！」<br />
　セルトは悔しい想いで歯噛みした。<br />
　町がどんな状況になっているかはわからないが、酷い騒ぎになっていることはわかる。<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　すでに騒ぎになってしまっているのなら、その被害を僅かでも減らす努力をするべきだとセルトは思い、考えを纏める。<br />
「敵は無数&hellip;&hellip;理由や動機は不明&hellip;&hellip;」<br />
「どうやらあれらは踏み固められた道しか通らないようだね。現に、浜から町に続く固められた道だけを通ってる」<br />
　確かに少年の言う通り、影の人形達は人がよく通り、踏み固められた道しか通っていないようだった。浜と町の間にある鬱蒼とした林には何故か入らない。あの運動能力があれば足場の悪さなど気にならないだろうに。<br />
　その理由はわからなかったが、それは行幸だった。<br />
　浜辺に打ち上げられた無数の影は狭い道を進もうとして、大多数の影が順番待ちで並んで動けない状態になっていた。<br />
「これなら&hellip;&hellip;！」<br />
　局地防衛で凌げる。道を塞いでしまえば影は町に入ることができない。<br />
　セルトは海から町に通じている道を頭に思い浮かべた。<br />
(&hellip;&hellip;確か道は三つ。一つは真ん中にある一番大きな道&hellip;&hellip;二つ目は斜め辺りにあるそれなりに大きな道。あとはその反対側にある小さな道&hellip;&hellip;)<br />
　考えながらセルトは少年に問う。<br />
「ねえ、君ならあの影を倒せる？」<br />
「倒せる」<br />
　少年は即座に答えた。あまりに間髪入れない即答だったため、セルトは不審げな顔をする。<br />
「&hellip;&hellip;本当に？」<br />
「嘘はつかない」<br />
　淡々としているためわかりにくいが、自信満々のようだった。セルトは少し考え、それだけ自信があるなら信じてみるしかないと結論づける。<br />
「それじゃあ、一番狭い道をふさぐよ。狭い道なら一度に来る数は少ないはず&hellip;&hellip;かといってそのまま町に雪崩れ込ませるわけにはいかないから」<br />
　せめて、村の非戦闘員が逃れる時間は稼ぎたい。<br />
「あなたはどうするの？」<br />
「君と一緒に行くよ。状況によっては、別の指示を出すから」<br />
「わかった」<br />
　少年はそう言い、セルトを再び抱き上げた。<br />
　一瞬、抗議しかけたセルトだが、急がなければならなかったので、抗議している場合ではないと思い直す。<br />
「いくよ」<br />
　短い少年の言葉と共に、再びセルトの全身に加速の負荷がかかる。<br />
　だが、前ほど辛くはならなかった。<br />
　それは少年がセルトの「もうちょっとゆっくりにして欲しかった」という言葉を覚えていたからかもしれないし、ただ単にセルトが加速に慣れてきたからかもしれない。<br />
　それはともかく――セルトが気づいた時には、少年はすでに細い道にやってきていた。<br />
　まだここにはあの人形たちは来ていないらしく、喧噪も遠く聞えているだけで静かなものだ。<br />]]>
    </description>
    <category>オリジナル『空の烙印』</category>
    <link>http://soranonakade.blog.shinobi.jp/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%80%8E%E7%A9%BA%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0%E3%80%8F/%E7%A9%BA%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0%EF%BC%92%EF%BC%99</link>
    <pubDate>Mon, 16 Feb 2009 13:43:45 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">soranonakade.blog.shinobi.jp://entry/35</guid>
  </item>
    <item>
    <title>空の烙印２８</title>
    <description>
    <![CDATA[<br />
　何の予兆もなく、影が襲いかかってくる。<br />
　鎌のように振るわれた腕が風を切り、唸りをあげて迫る。<br />
　少年はセルトを抱えてその攻撃を避けた。すでに一時の鋭い眼光はその顔になく、いつもの茫洋とした顔に戻っている。<br />
「&hellip;&hellip;なんだろう。こいつら」<br />
　軽く身を逸らして影の攻撃をかわした少年は、その勢いを殺さず、足を振り上げて影の頭部らしきところを蹴る。<br />
　結果、帰ってきたのは非常に生々しい感触だった。<br />
　骨や筋肉という要素がないただの肉の塊を蹴ったような感触。<br />
「変なの&hellip;&hellip;」<br />
「な、な、何なのこれは？！」<br />
　突然の事態に僅かに恐慌状態になるセルト。<br />
　逆に少年は冷静なものだった。いや、少年の場合は単に関心が薄いというべきだろう。<br />
「&hellip;&hellip;俺にもよくはわからない。けど攻撃してきたってことは敵であることは確か」<br />
「そんなことはわかってる！」<br />
　セルトは思わずそう叫んでから、さすがにこれは八つ当たりだと反省した。<br />
　冷静さを取り戻すために、深く息を吐く。<br />
「&hellip;&hellip;とにかく、この場は逃げよう。状況を把握しないと何もできない」<br />
　そういう間にも影は長く伸ばした爪のようなもので攻撃し続けてきている。<br />
　少年は無造作にかわしているが、数が多すぎる。いずれ逃げ道が完全に塞がれてしまうはずだ。<br />
「わかった。しっかり掴まっておいて」<br />
　そう少年はいうやいなや、全速力でその場を離れた。<br />
　以前と違い、少年はしっかりとセルトを抱えていたので腕が抜けそうなほど引かれることはなかった。<br />
　それでもやはり速すぎたために全身に負荷がかかり、セルトは気を失いそうになった。<br />
　少年が止まったとき、セルトはほとんど自失状態だった。<br />
「&hellip;&hellip;うぅ&hellip;&hellip;もうちょっとゆっくりにして欲しかった&hellip;&hellip;」<br />
「とりあえず浜の様子が見える位置まで来てみた」<br />
　セルトの文句を流し、少年はそう言う。<br />
　一瞬怒りかけたセルトだが、優先すべきは確かにそちらの方だったので意識をそちらに向けた。<br />
　少年がセルトを連れて来たのは浜を見渡せる位置にある小高い丘だった。<br />
　そこは三日月型の浜辺の端に位置する。<br />
　先程奇妙な影が上陸した場所と違い、海に面するところは崖になっており、影が上ってくる様子はない。<br />
　さらに先程の位置とは林で遮られているため、上陸してきた影も暫くは来れないハズだった。<br />
　そんな位置から落ち着いて海と浜を見たセルトは――自分の目がおかしくなってしまったのかと思った。<br />
　海はあの影で埋め尽くされていたのだ。魚の大群が波打ち際に打ち上げられたときのように、影が浜辺を埋め尽くしていた。<br />
　あまりの光景に絶句するセルト。少年はあいかわらず落ち着いたもので「凄いな、これは」などと呟いていた。少年が口にすると全く凄いと思っているようには聞こえなかったが、確かに凄まじい光景だった。<br />
　数量というものは単純に多ければ多いほどその圧倒的な迫力は増す。<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　絶句しつつも、セルトはこれから自分がどうするべきか考えた。<br />
　本音は「あれはなんだ」と叫びたいところだったが、答えが返ってくるわけがない。<br />
　少年の言う通り「とにかく攻撃してくるもの」と認識して対策を考える方が賢明だった。<br />
「&hellip;&hellip;とにかく皆に知らせないと！」<br />
　先程の少年に対する攻撃はかなり素早かった。<br />
　それだけでも人間にとっては驚異だし、ここまで数が多いと普段人間が魔物達に対して存在している数的有利も働かない。<br />
「住民を避難させないと&hellip;&hellip;！　行こう！」<br />
「もう皆知ってると思うけど」<br />
　そう言って少年が指差した方向の町では、数多の騒ぎ声が発生していた。<br />]]>
    </description>
    <category>オリジナル『空の烙印』</category>
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    <pubDate>Sun, 15 Feb 2009 12:10:54 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">soranonakade.blog.shinobi.jp://entry/34</guid>
  </item>
    <item>
    <title>空の烙印２７</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><br />
　夕日が海岸線の向こう側に沈もうとしていた。<br />
<br />
　一時的に世界が真っ赤に染め上げられている光景の中、セルト・ファーリンクスは浜辺に腰を降ろしていた。<br />
　その数メートルほど後ろには例の少年が立っており、無言のままセルトの背中を眺めている。<br />
　もう何時間以上のも二人はそうしていた。<br />
　立てた膝に顔を押し付けて蹲るセルトが震えていることに少年は気づいていたが、何も言わなかった。<br />
　セルトに「黙れ」と言われたからで、だから少年は沈黙を破ろうとはしない。<br />
　ようやくセルトが顔を上げた時、すでに周囲は暗闇に包まれていて、すっかり夜の帳が下りていた。<br />
「&hellip;&hellip;十年前、ボクはここでアルブラス様に助けてもらったんだ」<br />
　ほとんど独り言のように、セルトが呟く。少年は何も言わない。<br />
「そのころは自分のことは何もわからなかったし、アルブラス様も大きくて正直怖かったけど&hellip;&hellip;助けられたことは嬉しかったんだよ」<br />
　ぽつりぽつり、とセルトは過去を語る。<br />
　自嘲気味の笑みをその顔に浮かべて。<br />
「アルブラス様には感謝してもしきれない&hellip;&hellip;身元もわからない、得体のしれない私を拾ってくれたんだから。名前を貰って、ボクはセルトになったんだ&hellip;&hellip;」<br />
　硬く拳が握り締められる。何かの感情にその拳は震えていた。<br />
「だから&hellip;&hellip;アルブラス様の役に立てることで&hellip;&hellip;その恩を少しでも返していきたかった&hellip;&hellip;なのに&hellip;&hellip;っ」<br />
　捨てられるなんて。<br />
　セルトの額にはアルブラスとの主従契約の紋章が浮かび上がっている。アルブラスが破棄を宣言したため、セルトがそれを受け入れればその紋章は消えるはずだった。<br />
　まだ消えていないのは契約破棄をセルトが受け入れていないからに他ならない。<br />
「なんで君は私の平穏を壊すのさ！？　いきなり現れて、無理やり従者契約を結んで&hellip;&hellip;っ。訳わかんないよ！！」<br />
　たまたま傍にあった小さな石を、セルトは振り向きざまに少年に向けて投げつける。<br />
　石は少年に当たることなく、少年の足元の砂浜に音もなく落ちた。<br />
「消えてよ&hellip;&hellip;どこでもいいから遠くに行っちゃってよ！！」<br />
「それは断る」<br />
　セルトの心底からの叫びに、少年はこともなげに応えた。勝手なことを言う少年にセルトが憎悪の目を向けた。<br />
「ふざけないで！！　邪魔なの！！　顔も見たくない！！　従者っていうなら主人に従いなさいよ！！」<br />
　少年は淡々とした表情を崩さずに応えた。<br />
「残念ながら、従者たる者にも意思はある。あなたがあの獣人との契約破棄を受け入れないように、俺もあなたの命令を受け入れない」<br />
「勝手なことばかり&hellip;&hellip;っ！！」<br />
「&hellip;&hellip;さっきから思っていたんだけど、あの獣人との契約はそんなに大事？」<br />
　不思議そうな顔で訊いてくる少年に、セルトは思わず返す言葉を失った。<br />
　何を言っているのだ、こいつは。<br />
「&hellip;&hellip;君は、私の話を聞いていなかったの&hellip;&hellip;？　ボクは&hellip;&hellip;ボクはね！！　アルブラス様のお役に立ちたかったんだよ！！　お傍にいたかったの！！　それを君が――」<br />
「それは、従者として？」<br />
　少年の問いの意図がわからず、セルトは思わず吐き出しかけていた言葉を呑み込んだ。<br />
「は？　何が言いたいの？」<br />
「あなたはあの獣人の役に立ちたかったんだろう？」<br />
「だから、さっきからそう言ってるじゃない」<br />
「それは従者として？　従者でなければ彼の役には立てない？」<br />
　訳のわからないことを言い続ける少年にセルトの頭は混乱した。<br />
「何を言ってるの？」<br />
「役に立つってだけなら、別に従者じゃなくても構わないんじゃないかってことだけど」<br />
　そのセリフを聞いて、セルトはようやく少年の言いたいことを理解した。<br />
　理解して――呆れる。<br />
「君、まさか『助言者』のことを言ってるの？」<br />
「それだけじゃないけど&hellip;&hellip;今でもその習慣はあるんだろう？」<br />
　『助言者』。<br />
　それは優れた策士や策略家の人間が務める役目で、『獣人に知恵を貸してその代わりにその獣人に護ってもらう』、という人と『主』の関係の一つだ。<br />
　まさに言葉通りの助言者で、主従の関係と違うのはあくまでも両者の立場が平等という点だ。<br />
　少年の言う通り、いまでもこの関係性は廃れておらず、実際にセルトもその『助言者』に会ったことがある。<br />
　セルトならば確かにそれも取れる道ではあったが――彼女は首を横に振った。<br />
「私がアルブラス様と対等の関係を取れるわけないでしょ。私はアルブラス様に命を救われたのよ？　だから――」<br />
「でも、あの獣人は別にあなたを従者にしたかったわけじゃなかったと思う」<br />
　こともなげに断言する少年に、セルトは食ってかかった。<br />
「君に何がわかるって言うのよ！！　なんでそんなことが言えるわけ！？　一日そこら居候しただけで偉そうなことを言わないでくれる？！」<br />
「証拠はある。まず、俺は昨日あの獣人と――」<br />
「さっきから思ってたけど、アルブラス様のことを『あの獣人』って呼ぶのは止めてくれる？　それ、私を『人間』って言ってるくらいに失礼な呼び方よ」<br />
　少年は一瞬だけ沈黙し、口を開いた。<br />
　そこで口論していたは始まらないと思ったのだろう。セルトの言うことを素直に聞いた。<br />
「昨日、アルブラスと呑んだけど――その時、アルブラスはあなたのことについて『あいつはもっと自由でもいいんじゃねえかと思っている』と言っていた。それはきっと主従契約であなたのことを縛りつけたくなかったという意味だと思うのだけど？」<br />
　セルトは初めて聞くアルブラスの言葉に目を見開いた。実はアルブラスはセルトに対してその類のことは一度も口にしていなかったのだ。改めて口にすることでもないということと、おそらく言っても聞かないだろうという思いもあったのだろう。<br />
「&hellip;&hellip;私はこの立場を自分で選んだのよ。不自由なんて感じて――」<br />
「そうか？　あなたは記憶を持っていなかったんだろ？　正式に従者となったのは十歳のころ、だっけ？　自分の道を選ぶには幼すぎる歳だと思うけど」<br />
「私はそれで納得してたわよ。&hellip;&hellip;アルブラス様は優しい方だから、そう言ってくれるのはありがたいけど」<br />
　さらにセルトが言葉を続けようとしたのを少年は遮った。<br />
「あともう一つ。アルブラスがあなたを拾った時、名前も与えたんだよね？　その名前はなんだった？」<br />
　セルトは首を傾げながら答える。<br />
「&hellip;&hellip;セルトに決まってるじゃない」<br />
「その時の『家族名』は？」<br />
「&hellip;&hellip;？　ファーリンクス&hellip;&hellip;あれ？」<br />
　少年に言われるままに応えたセルトは、そこで違和感を感じた。<br />
　その違和感が何なのか、首を傾げるセルトに向かって少年が核心の言葉を言い放つ。<br />
<br />
「じゃあ、あなたは『アルブラスの従者になる前』から『アルブラスの家族名であるファーリンクスを貰ってた』んだよね？」<br />
<br />
　セルトはいまさら気づいた事実に絶句した。<br />
　そうなのだ。<br />
　普通、『主』が人に『家族名』を与えるのは限られた時だけ。<br />
　一番普遍的なのが従者として正式に契約した時だが、もう一つ与えるときがある。<br />
　それが、『その人間を家族として自分の家に迎え入れるとき』である。<br />
　獣人に限らず、『主』は総じて生殖能力が低く、寿命が長い。<br />
　だから、『主』は気に入った人間を『養子』のような形で自分の家族とすることがあるのだ。<br />
　それを踏まえて考えると。<br />
<br />
　セルトを拾った当初、アルブラスはセルトを従者としてではなく、家族として扱おうとしていたということに他ならない。<br />
<br />
「大体、ここで倒れているのを拾ったからってアルブラスがあなたを養う必要はなかったはずだけど。村を歩いたときに見かけたけど、この村にも孤児院はあるんだろう？　なら、そこに預ければよかったじゃないか」<br />
「そ、それは&hellip;&hellip;きっとアルブラス様は、私を子供の時から育てることで、従順で優秀な従者を得たいと思っていて――だから、『家族名』も予めくださったの、よ&hellip;&hellip;」<br />
「それはないね」<br />
　とぎれとぎれの反論は、あっさり少年に否定された。<br />
「アルブラスの言動や性格から察するに彼は筋は通す。主従契約はあくまでも『主』と人の間で自由意思によって結ばれるもの。主従契約も結んでいない、それもまだ五歳程度の幼子に対して従者となるように誘導するような真似はしない。それはあなたの方がわかっているんじゃないのか？」<br />
　セルトは言葉に詰まった。<br />
　確かにそうなのだ。アルブラスはそんな筋の通らないことはしない。良くも悪くも彼は誠実なのである。<br />
「拾ったばかりのあなたにアルブラスが何を見出したのかはわからない。俺は彼じゃないから。でも、アルブラスはあなたを従者としたかったんじゃなくて家族にしたかったんだということだけはわかる」<br />
　それに、と少年は続けた。<br />
「契約を破棄するって言った時、アルブラスは言ってたじゃない。『捨てるわけじゃない』って。主従契約『は』破棄するって。つまりそれ以前の関係&hellip;&hellip;家族関係はあるって言いたかったんじゃないかな。はっきり言わなかったのは&hellip;&hellip;たぶん、アルブラスがおおざっぱだから。自分が認識していた関係をあなたも認識しているものだと思ってたんだと思うよ」<br />
　そう指摘されてみると、確かにアルブラスのあの言い回しは微妙におかしいとセルトは思った。<br />
　少年の指摘はことごとく的を得ていて――セルトは何も言えなくなる。<br />
「なんなら、アルブラスの屋敷に顔を出してみれば？　どっちにしても荷物を取りに行かないといけないだろう？　その時アルブラスがどういう態度であなたに接するか――それで大体わかると思うけど。ひょっとしたら今頃、いるはずのあなたがいないことに気づいて妙に思っているかもね」<br />
　セルトはそうなのかもしれない、と思った。<br />
　ひょっとすると、自分はアルブラス様の考えをほとんど理解できていなかったのではないかと――思えた。<br />
　確かにいずれにせよ、一度はアルブラスの屋敷に戻らなければならない。戻るのなら、早い方がいいだろう。<br />
　セルトは立ち上がり、踵を返して歩き出した。<br />
　少年は相変わらず茫洋とした目をしていたが、どことなく満足げな印象を受けた。<br />
　セルトが気を持ち直したことを喜んでいるのか、それとも――。<br />
　そこでふと、セルトは気になって足を止めた。<br />
　自分の傍で立ち止まったセルトに、少年は不思議そうな顔を向ける。<br />
「どうかした？」<br />
「&hellip;&hellip;色々と主従契約は自由意思がどうのこうの、筋を通すだのなんだの言ってたけど&hellip;&hellip;それを言ったら、君が私と交わした主従契約は一方的に過ぎない？」<br />
　それこそ『筋が通っていない』主従契約だと思われた。<br />
　確かに「死んでも良かった」と思っていた少年を助けたのだから、セルトには彼を導かなければならない義務は存在するかもしれない。しかし、別に主従契約を交わさなくても導くことは出来る。それこそ山のように選択肢はあったはずだ。<br />
　それがなぜ強引に結んでまで主従契約に拘ったのか――セルトは不思議だった。<br />
　少年はほんの少し考え、首を横に振った。<br />
「俺にもよくわからない」<br />
「は？」<br />
「強いて言うなら&hellip;&hellip;勘、かな」<br />
「&hellip;&hellip;はぁ？」<br />
　セルトはその言葉を聞いて、心底あきれ果てた。こともあろうに理由が勘。<br />
　確かに『主』は人間には考えられないような第六感を働かせることがあるが、それにしても強引に主従契約を結んだ理由がそれでは、無責任にも程がある。<br />
「それはいくらなんでも酷すぎない？」<br />
「そう言われても&hellip;&hellip;文字通り勘だから、理屈として説明はちょっと&hellip;&hellip;」<br />
　本気で困り果てているらしい。ほとんど表情は変わらなかったが、僅かな変化でもこの少年としては十分すぎる。<br />
　セルトが文句の一つでも言ってやると口を開こうとした――寸前、少年がセルトを砂浜に押し倒す。<br />
「きゃあ！？　ちょ、何す――」<br />
　悲鳴をあげかけたセルトだが、少年の表情が先ほどまでと一変していることに気づいて言葉を呑み込んだ。<br />
　少年は恐ろしく鋭い眼光を、セルトの頭上――海の方向――に向けている。<br />
「何だ&hellip;&hellip;こいつは！！」<br />
　有無を言わさず倒れたセルトを抱き上げた少年は、勢いよく地面を蹴って後退する。<br />
　寸前までセルトが倒れていた位置の砂浜が、何か鋭利な刃で抉られたかのように切り裂かれた。ふと気づくと、砂浜から離れた位置にある木々が切断されているのがわかった。少年がセルトを押し倒したのは、どうやら地面と平行に切れ味の鋭い何かが飛んできたからだったらしい。<br />
　あのまま立っていたら、おそらくセルトの首は胴体から離れていただろう――そんな高さで木は切られている。<br />
「え？！　な、なに！？　なんなの？！」<br />
　少年に抱きかかえられながらも、海の方を振り返ったセルトは、そこに広がる光景に絶句することになる。<br />
<br />
――黒い人影のような、得体のしれない無数の『何か』が、波打ち際がが黒くなるほどに押し寄せていた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>オリジナル『空の烙印』</category>
    <link>http://soranonakade.blog.shinobi.jp/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%80%8E%E7%A9%BA%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0%E3%80%8F/%E7%A9%BA%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0%EF%BC%92%EF%BC%97</link>
    <pubDate>Thu, 11 Sep 2008 14:51:44 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>空の烙印２６</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><br />
　アルブラス・ファーリンクスの従者、ミレイナはその話を聞いた時、目が眩むほどの怒りを覚えた。<br />
<br />
　話をしてくれた従者に対するお礼もそこそこに、ミレイナは駆け足で主人の部屋に向かう。<br />
　たどり着いたミレイナは、ノックをすることなくドアを勢いよく開く。それは本来なら主人に対する不敬に当たるところだったが、ミレイナは激怒していてそんなことは気に留めていなかった。<br />
　職務机に向かって何やら書類を整理していたらしいアルブラスが、ミレイナらしからぬ激しさに驚く。<br />
「ミレイナ？　なんだいきなり」<br />
「アルブラス様！！」<br />
　肩を怒らせながら、ミレイナが机の前に立ち、両手で机の天板を叩く。<br />
　凄まじい音が部屋に響いた。<br />
「セルトちゃんとの従者契約を解除したというのは本当ですか！？」<br />
　ミレイナはあの居候の少年と別れた後、夕食の準備をするために市場などに行っていたため、セルトの話を聞いたのは夕食を食べ終わり、従者同士で雑談などが出来る自由時間になってからだった。<br />
　セルトの姿が見えないのは妙に思っていたが、ほとんどの場合家にいるミレイナと違い、様々な場所に出歩くことが多いセルトだったため、姿が見えないのも仕事の上でのことだと思っていたのだ。<br />
　まずは話の真偽を確かめるためにアルブラスのところへ来たわけだが、彼女の主人はあっさりとその話を認めた。<br />
「ああ。そうだが？」<br />
「そ、そうだがって&hellip;&hellip;っ！」<br />
　あまりに軽いアルブラスの物言いに、ミレイナは怒りがさらに沸き起こるのを感じる。怒りが強すぎて言葉が出ない。<br />
　そんなミレイナを不思議そうに見ながら、アルブラスは手元にあった書類を示す。<br />
「ところでミレイナ、ちょうど良かった。今日の昼にやった橋の復旧作業の件なんだが&hellip;&hellip;いまいち上手く段取りが組めなくてな。お前も考えてみてくれ」<br />
　ばさり、とアルブラスは書類をミレイナの前に出す。<br />
　アルブラスは頭脳派ではないので、こういった段取りは苦手なのだ。<br />
　こういうものは――まさにセルトの領域だったのである。<br />
　アルブラスは別の書類を手に取り、面倒くさそうに頭を掻きながら言った。<br />
「やっぱりこういうのは性に合わん&hellip;&hellip;これなどはどう計算したらいいのかもさっぱりだ&hellip;&hellip;ミレイナ。すまんがセルトの奴を呼んでくれ。この書類について、あいつに相談に乗ってほしいんだ」<br />
　あっさりと、アルブラスはそんなことを口にした。<br />
　ミレイナは自分の頭の中で何かが千切れる音をはっきりと聞いた。<br />
　いつもの穏やかな顔はどこへやら。憤怒の形相でアルブラスに向かって怒鳴る。<br />
「何を馬鹿なこと言ってるんですか！！　アルブラス様、あなたは！！」<br />
　犬種のアルブラスに対して、怒鳴るという行為は非常にまずかった。<br />
　耳がいいから、怒鳴るという行為は彼にかなりの不快感を与えてしまうのだ。<br />
　盛大に顔をしかめたアルブラスはミレイナを睨みつける。<br />
「うるせえぞ、ミレイナ。怒鳴らなくても聞こえている」<br />
「セルトちゃんがこの家にいるわけないでしょう！？　従者契約を破棄しておいて、何を虫のいいことを言ってるんですか！？」<br />
　ミレイナの叫びに、アルブラスは不思議そうな顔をする。<br />
「なに？　あいつ、家にいないのか？」<br />
「い、いないのか&hellip;&hellip;ですって&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;？」<br />
　あまりの怒りに足元がふらつき、ミレイナは一歩後ろに下がる。<br />
「いれる、わけ、ないでしょうが&hellip;&hellip;あなたから従者契約を破棄されて&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;ここにいられるとでも思っているんですか&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;っ！！」<br />
　従者としての立場を忘れ、ミレイナはアルブラスをひっぱたいてやろうと下げてしまっていた一歩を元に戻した。<br />
　だが。<br />
「まー、待て。ミレイナ」<br />
　いつの間にか背後に立っていたウズナが振り上げかけたミレイナの手を掴んだため、未遂で済んだ。<br />
　ミレイナは肩越しに振り返ってウズナを睨みつける。<br />
「放しなさいよ！　一発くらい殴られても文句はないはずよ！！」<br />
「落ち着けって。お前の怒鳴り声、屋敷中に響いてるぞ。いつも穏やかなお前がそんなだと、他の奴らが不安がるだろうが」<br />
　無理やりウズナの手を振り払ったミレイナは、ウズナに向き直る。<br />
「あんたはなんでそんなに冷静でいられるのよ！　セルトちゃんのこと、可哀想だと思わないの！？」<br />
　ウズナは首を竦める。<br />
「アルブラス様が仲間内での順位をはっきりさせるのは知ってるだろ。だから従者の中に、不本意であれ主人になったセルトを置いておくわけにいかねーだろ？」<br />
「そんな理屈&hellip;&hellip;！！　それにアルブラス様がいまなんて言ったと思ってるの？！」<br />
　一方的に従者契約の破棄を宣言したくせに、まだセルトが自分の従者であるかのような言動を取った。<br />
　それは許されることではない。<br />
　ミレイナはそう思って怒っていたが、ウズナは冷静だった。<br />
「落ち着けって。よく考えろ。お前もセルトと同じ頭脳派の一人だろ。今のアルブラス様の発言も、よーく考えたらわかるはずだ」<br />
「&hellip;&hellip;わかるわけないでしょう」<br />
　どう考えても、アルブラスの発言はおかしい。<br />
　頑ななミレイナを見て、ウズナは溜め息を吐いた。<br />
「あのな&hellip;&hellip;いいか？　えーと、確かお前は従者になって&hellip;&hellip;九年、だったよな。ちなみに俺は十五年だが。&hellip;&hellip;なるほどそういうことならわからなくても無理ない&hellip;&hellip;か？」<br />
　十五歳の時、ミレイナは従者市で主人を探していた時に、家事能力をアルブラスに評価され、彼の従者となった。<br />
　ウズナはアルブラスの知り合いである『主』の元にいたが、アルブラスの元にいた従者と交換、という形でアルブラスの従者になった。（ちなみに仲のよい『主』同士での従者の交換はこの世界ではよく行われている）<br />
「&hellip;&hellip;どういう意味？」<br />
　ウズナが何を言いたいのかわからず、ミレイナは混乱する。<br />
　ひとしきり一人で頷いた後、ウズナは改めて口を開いた。<br />
「なあ、ミレイナ。お前がこの集団にやって来る前――お前は何て名乗ってた？」<br />
「&hellip;&hellip;？　『ミレイナ・ハルシオン』だったけど&hellip;&hellip;？」<br />
「いまは？」<br />
「はあ？　決まってるじゃない。『ミレイナ・ファーリンクス』よ」<br />
　原則、従者は主人の『家族名』を名乗ることになっている。それはどの国、どの地域でも変わらない規則だ。<br />
　ウズナは頷き、自分を示す。<br />
「俺はここに来る前は『ウズナ・レギオルト』だったが、いまは『ウズナ・ファーリンクス』だ」<br />
「&hellip;&hellip;当たり前じゃない。ねえ、あなたさっきから何が言いたいの？」<br />
「じゃあ訊くが、お前がこの集団にやってきた当初、セルトはなんて名乗ってた？」<br />
　ミレイナは質問の意図がわからないまま、応える。<br />
「『セルト・ファーリンクス』、でしょう？」<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;まだ気付かないか？」<br />
　お前頭脳派だろ、という顔でウズナはミレイナを見る。<br />
（彼女の名誉のために補足しておくと、この時のミレイナはセルトのことで怒っていて冷静な判断能力を失っていたのだ）<br />
　馬鹿にされているように感じたミレイナは、苛々とした様子でウズナに向かって怒鳴った。<br />
「あー、もう！　回りくどいのよ！！　さっさと詳しく説明しなさい！」<br />
「お前な&hellip;&hellip;まあいいか。確かに回りくどかったしな。&hellip;&hellip;いいか？　セルトがこの集団に来た経緯とアルブラス様の従者になった経緯。それと、そのそれぞれが何年前だったか考えてみろ。――もうわかるだろ？」<br />
　そこまで聴いて、ミレイナはようやく違和感に気づいた。<br />
　セルトがこの集団にやってきたのは十年前。アルブラスの従者になったのは五年前。ミレイナが初めて出会った時にセルトが名乗った名前が『セルト・ファーリンクス』。従者契約を破棄したアルブラス。その彼の先ほどの発言。<br />
　それが意味することは――。<br />
「まさか&hellip;&hellip;そういうことだった&hellip;&hellip;んですか？」<br />
　ミレイナが真意を確認するためにアルブラスの方を見る。<br />
　アルブラスはいまだにミレイナが何をそんなに怒っているのかわかっていないのか、不思議そうな顔でミレイナとウズナを見ていた。<br />
　ミレイナが確認のために口を開きかけた、その時。<br />
　従者の一人が、慌てた様子で部屋の中に駆け込んできた。<br />
「アルブラス様！　大変です！　海の方で――」<br />
<br />
　その従者の報告を聴いたアルブラスは、驚愕に目を見開いた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>オリジナル『空の烙印』</category>
    <link>http://soranonakade.blog.shinobi.jp/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%80%8E%E7%A9%BA%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0%E3%80%8F/%E7%A9%BA%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0%EF%BC%92%EF%BC%96</link>
    <pubDate>Sat, 06 Sep 2008 14:17:28 GMT</pubDate>
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  </item>
    <item>
    <title>空の烙印２５</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><br />
　契約破棄。<br />
　無論、少年が交わしてきた契約をセルトが一方的に破棄出来ないように、アルブラスといえども一方的に主従契約を破棄することはできない。<br />
　しかし、『契約を破棄する』、とアルブラスに言われたことにセルトは衝撃を受けた。<br />
「あ、アルブラス様&hellip;&hellip;っ」<br />
　慌ててセルトが少年の手を振り払い、アルブラスの傍に走り寄る。<br />
「待ってください！　な、なんで契約を、破棄する、なんておっしゃるんですか&hellip;&hellip;っ」<br />
「主人を飼うわけにはいかねーだろ」<br />
　そっけなく答えるアルブラス。<br />
　もちろん、セルトはなぜアルブラスが怒っているのか、わかっている。<br />
　アルブラスは犬族の『主』だからか、仲間意識が高いと同時に、その仲間の中での順位付けを徹底しているのだ。<br />
　一人一人に番号をつけて正確な順位を作っているわけではないが、『どちらが仲間の中で重要か』ということははっきりさせている。<br />
　その順位付けが徹底しているからこそ、アルブラスは主人として従者を導き、リーダーとして守ることを誓っているのだ。<br />
　だから、理由はどうあれ、誰かの主人であるセルトを自分の従者として下に置くことが出来ない。<br />
　彼の基準でいえば、主人は従者を守るもので、主人に守ってもらうものではないのだから。<br />
　アルブラスがそういう考えでいることはわかっている。わかっているが、セルトは食い下がった。<br />
「お願いです。彼の契約は、一方的に交わしてきたものなんです！　私が主人になろうとしたわけでは&hellip;&hellip;！」<br />
「だが、契約印が手の甲にある以上、主従の契約は交わされている。お前の意思がどうあれ、お前は主人だ。俺の従者にし続けることはできねえ」<br />
　取りつく島もないアルブラス。<br />
　セルトは胸がつぶれそうな焦燥を覚えた。<br />
「アルブラス様！　お願いです&hellip;&hellip;捨てないでください&hellip;&hellip;っ！」<br />
　恥も外聞もなく、セルトはアルブラスの服を掴んで哀願する。<br />
　アルブラスは冷たい眼でそんなセルトを見、手を振り払った。<br />
　彼は軽くしたつもりだったのかもしれないが、セルトには強く振り払われたように感じられた。強い拒絶のような気がした。<br />
　ふらり、と足がふらつき、セルトはそのままその場に座りこんでしまう。<br />
「捨てるわけじゃない。だがアルブラス・ファーリンクスと、セルト・ファーリンクスとの『主従契約はここで破棄する』。――あとはお前がそれを受け入れればもうお前は俺の従者じゃなくなる。&hellip;&hellip;さっさと破棄しておけ」<br />
　言うだけ言うと、アルブラスは他の従者たちに声をかけ、橋の建設作業に戻っていった。<br />
　他の従者たちはセルトを気にはしていたが、従者として主人が指示を出せば逆らうわけにもいかず、その場から離れていく。<br />
　その場にはセルトと少年だけが残った。<br />
　少年は相変わらず茫洋とした表情で、座り込むセルトを見つめ続けていた。<br />
<br />
――どのくらいの時間が経過しただろうか。<br />
<br />
　セルトが不意に立ち上がった。<br />
　その足取りには力がなく、まるで幽霊のようにふらふら右へ左へ揺れながら歩き出す。<br />
　少年がそんなセルトに声をかけようと口を開いた。<br />
「ねえ――」<br />
「黙れ」<br />
　少年の発言を即座に封じたセルトは、相変わらず危うい足取りで歩いていく。<br />
　それをしばらく見つめていた少年だが、セルトが十メートルほど離れてしまった辺りで後を追って歩き出した。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>オリジナル『空の烙印』</category>
    <link>http://soranonakade.blog.shinobi.jp/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%80%8E%E7%A9%BA%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0%E3%80%8F/%E7%A9%BA%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0%EF%BC%92%EF%BC%95</link>
    <pubDate>Thu, 04 Sep 2008 13:18:35 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">soranonakade.blog.shinobi.jp://entry/31</guid>
  </item>
    <item>
    <title>空の烙印２４</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><br />
　巨大化したザリガニの一撃を片手で受け止めて見せた少年。<br />
　誰もがあっけに取られる中、自慢の鋏を受け止められたザリガニは怒ってもう片方の鋏を振り回した。<br />
　少年はそちらの鋏も受け止める。<br />
　ザリガニと力比べをしているような状態になった。<br />
　しかし少年は一歩も退かず、真正面からザリガニと力比べを行う。<br />
　力の緊張が二者の間で続く。<br />
　ザリガニの鋏を止めているだけでも信じられないことだが、少年はさらに信じられないことを行った。<br />
　なんと、ザリガニの巨体をそのまま持ち上げて見せたのだ。<br />
　自分より小さい者に持ち上げられるなど、想像も出来なかったであろう。ザリガニは足を蠢かせて暴れる。だが、少年は毛ほども揺るがない。<br />
「&hellip;&hellip;ふっ！！」<br />
　鋭く少年が息を吐くのと同時、少年の両腕に力が込められ、両方の鋏を根本からねじ取った。<br />
　生理的に気持ちの悪い紫色をした体液をまき散らせながら地面に落ち、無様に後退するザリガニ。<br />
「返す」<br />
　そんなザリガニに向かって、少年は片方の手に取っていた鋏を無造作に投げつけた。<br />
　鋭い凶器と化した鋏の先端は、硬いザリガニの外殻をぶちやぶり、反対側まで突き抜ける。<br />
　崩れ落ちるザリガニを捨て置いて、少年は先ほどセルトが見ていた茂みを見やった。<br />
「いる」<br />
　その少年の呟きに呼応するかのように――実際は仲間が倒されたからだろうが――もう一匹、倒された方よりも一回り小さいザリガニが姿を現す。<br />
　どよめく周りの従者たちに構わず、少年はこれもまた無造作に鋏を投げつけた。<br />
　突進をかけようとしていたザリガニは高速で飛んでくる鋏を避けることができず、あっさりと頭部を砕かれて息絶える。<br />
　二匹の巨大ザリガニを一蹴した少年は、息一つ乱さないまま、背後のセルトに呼びかけた。<br />
「大丈夫？」<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
　唖然としているセルトは、とっさに応じることが出来なかった。<br />
　圧倒的なまでの強さ。<br />
　その強さは、たとえ『鬼人』であったとしても、あり得ないほどのものだった。<br />
「君、は&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;ひょっとして」<br />
　身体に変異は見当たらない。しかし、先ほどの強さはどう考えても一つの可能性を示している。<br />
　果たして、察した少年は何気ない口調で、セルトが言おうとしていることを肯定する。<br />
「ああ、俺は『主』だけど。――それがどうかした？」<br />
「ど、どうかしたって&hellip;&hellip;」<br />
「そんなことより――言っただろ？　セルト・ファーリンクス」<br />
　少年はセルトの前に跪き、その手の甲を摩った。<br />
　契約を結んだ時に浮かび上がった紋章が、浮かび上がる。<br />
「我が名の元に忠誠を誓う、と。忠誠を向ける相手がいなくなっては困る。あなたには生きていてもらわなければ」<br />
「で、でも、『主』が人間に、忠誠を誓うなんて&hellip;&hellip;おかしい&hellip;&hellip;」<br />
　セルトのもっともな意見に、少年は首を傾げる。<br />
「別におかしくはない。『主』と人の間に交わされるのを、契約という。『主』が主で、人が従でなければならないとは定めていないはず」<br />
　それは屁理屈にも近いものだった。<br />
　だが、少年は事実で理屈を丸めこんだ。セルトの手の甲に浮かび上がっている紋章を示す。<br />
「こうして、『主従の印』が発生している以上、主従契約は有効」<br />
「それは&hellip;&hellip;そうかもしれないけど、でも、君が勝手に結んだ契約でしょう！？　私は従者として、契約を結んだアルブラス様のお役に立たなければならないのよ！！」<br />
<br />
「――その契約は、破棄する」<br />
<br />
　突然響いた低い声に、セルトは驚いて顔を向けた。<br />
　木々の間から現れたアルブラス。<br />
<br />
　彼は、これまでセルトに向けたことがない、厳しい眼をセルトに向けていた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
&nbsp;</p>]]>
    </description>
    <category>オリジナル『空の烙印』</category>
    <link>http://soranonakade.blog.shinobi.jp/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%80%8E%E7%A9%BA%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0%E3%80%8F/%E7%A9%BA%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0%EF%BC%92%EF%BC%94</link>
    <pubDate>Sat, 30 Aug 2008 13:50:23 GMT</pubDate>
    <guid isPermaLink="false">soranonakade.blog.shinobi.jp://entry/30</guid>
  </item>
    <item>
    <title>空の烙印２３</title>
    <description>
    <![CDATA[<p><br />
　セルトの戦略は実に有効だった。<br />
<br />
　ザリガニは前で長い木材を突き込んでくる三人を警戒して、勢いよく踏み込んでくることが出来ない。<br />
　たまに繰り出される鋏の軽い突き込みは防御役が素早く防げる水準だ。<br />
　さらに後ろに回った二人が時折気を引くことで、前に突進をかけることを防いでいた。<br />
　倒すことは出来ないかもしれないが、時間稼ぎという目的は十二分に達成できている。<br />
「油断しないでください！　こう着状態を作っているだけです！　気を抜いたら死にますよ！」<br />
　そしてセルトはこう着状態に慣れ始め、攻撃や防御が甘く鳴り始めたものに対し、声をかけて気が緩まないようにしていた。<br />
　その声かけは絶妙で、いまのところただの一人にもケガすら負わせていなかった。<br />
（よし、遅くてもあと十分&hellip;&hellip;この配置で耐えきれる&hellip;&hellip;！）<br />
　アルブラスへと出した伝令の足の速さ、アルブラスがいるであろう位置を考慮に入れた上での結論だった。<br />
　いちばん最悪の状況はアルブラスの方にも敵が現れている、という状況だったが、資材を取りに行った先は町の倉庫なので敵が現れる可能性は限りなくゼロに近いため、考慮に入れていない。<br />
　そのような状況だった場合は、犠牲を出しても撤退しなければならないだろうが。<br />
（アルブラス様たちの助けがないのが最悪のパターン。けど&hellip;&hellip;）<br />
　もっと確率が高い状況もある。<br />
　それを避けるためにセルトは指示を出しつつも周囲の警戒を怠っていないのだ。<br />
（もともと、こんな場所にザリガニがいること自体あり得ない。なら、その可能性も十分ありうる&hellip;&hellip;）<br />
　別の個体が潜んでいるかもしれない。<br />
　普通、魔力を蓄えて巨大化した個体の傍に、同種の個体は近づかない。<br />
　だから、可能性としては極めて低いことだったが、あり得ないと思っていた事象が目の前で起きている以上、警戒しないわけにはいかなかった。<br />
（一匹だけならともかく、二匹もいたら無理だ。そしたら&hellip;&hellip;）<br />
　どのように皆を逃がせばいいか考えるセルト。<br />
　その視線が、ある一点で止まった。<br />
　遠い位置にある茂み。それが不自然に揺れている。<br />
（&hellip;&hellip;っ！　まさか本当に二匹目が&hellip;&hellip;？）<br />
　もしもそうなら、出てくる前に次の手を打たなければならない。<br />
　こう着状態とはいえ、動けないわけではない。<br />
　まずは敵の存在を皆に教えなければ、と口を開きかける。<br />
　だが。<br />
「セルト嬢！　あぶねえ！」　<br />
　その従者の言葉を聞いて、いままで相対していたザリガニが自分目がけて突進してきていることに気づく。<br />
（しまった！　気を取られ――）<br />
　どうやら集団から一歩離れた位置にいたセルトを、集団のリーダーだと認識したらしい。<br />
　魔力を蓄えた個体は知恵をつけるとわかっていたのに、その対策を取らなかったセルトの失策だった。<br />
　攻撃役や防御役を無理やり突破して、セルトに大きな鋏が迫る。<br />
　咄嗟にセルトは腕を上げて顔を庇ったが、セルトの細腕では盾にもならない。<br />
　強烈な一撃が、セルトの体に叩き込まれる――寸前、脇愛から割り込んできた手がその鋏を受け止めた。<br />
　ギシッ、っという音を立てて、ザリガニの鋏が歪む。<br />
　唐突な乱入者にみなが目を剥く中、その乱入者自身はのんびりと呟いた。<br />
<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;大丈夫？」<br />
<br />
　居候の少年は、何気ない口調でセルトに訊いた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
&nbsp;</p>]]>
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    <category>オリジナル『空の烙印』</category>
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    <pubDate>Thu, 28 Aug 2008 13:36:54 GMT</pubDate>
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    <item>
    <title>空の烙印２２</title>
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    <![CDATA[<p><br />
　セルトは非戦闘員のため、不意を突かれた一撃を避けれるような反射神経は持っていない。<br />
<br />
　しかし、意図せず引いた足が滑り、地面に倒れ込むことによってその鋏を避けることが出来た。<br />
　放り出された橋の設計図が鋭利な鋏に両断され、真っ二つになる。<br />
　敵の襲撃に周囲にいた従者たちが気づき、セルトはそのうちの一人に抱えられてその場を逃れた。<br />
「大丈夫か、セルト嬢！？」<br />
「は、はい。ありがとうございます」<br />
　セルトは礼を述べつつ、襲撃者の正体を確認する。<br />
　鋏以外の部分は茂みに隠れていたので、鋏しか見えていなかったが、その特徴的な形からセルトはすぐに敵の正体を知る。<br />
（――あれは――ザリガニ！？）<br />
　それも、魔力を蓄え、体長十メートルほどに巨大化した個体だった。<br />
　魔力を蓄えて巨大化した生物は、肥大するにつれて力も強くなり、知恵をつけるものもいる。<br />
（まずい、アルブラス様もウズナさんもいない状況では――！）<br />
　セルトは素早く周囲を見渡した。いまここにいる人員、ある道具、場所と状況を把握する。<br />
「皆さん！！」<br />
　敵が茂みの中から這い出るのに手間取っている間に、セルトは周囲の従者に呼びかけた。<br />
　全員の注意が自分に向くのを確認して、セルトは言う。<br />
「私の指示に従ってください！　この状況なら倒せます！！」<br />
　ざわり、とざわめきが広がる。<br />
「逃げた方がよくないか？！」<br />
　魔力を蓄えて巨大化した生物は強い。<br />
　獣人のアルブラスや、戦闘に長けたウズナの班ならともかく――彼らがいない状況で相手にするのはまずい。<br />
　セルトもそれはわかっている。<br />
「逃げるために背を向ければ、反撃することができません！　相手の動きは素早い、そうなれば最悪一人か二人犠牲が出てしまいます！」<br />
　つまり、ここでの最良の手は一つ。<br />
「戦って、最悪でも状況の停滞を生み出します！　騒ぎはすぐにアルブラス様にも伝わるはず――それまで持ちこたえればいいんです！」<br />
　理解した従者たちが、納得して頷く気配が伝わってきた。<br />
　セルトは素早く指示を出す。<br />
「まずミラネさん、カズハさん、オオミさん、そこの長い木材を持って、敵の正面三方で構えてください！　攻撃方法は主に突きで！　横に振るえば鋏に切断されるかもしれませんから気をつけて！　あくまでも牽制してください！」<br />
　いま呼んだ三人は、ここにいる従者の中では膂力があり、戦闘経験がある三人だ。<br />
　彼らなら、敵の正面に立っても物おじしないであろうと判断した。<br />
「サイナさん、ニナモガさん、キクオさん、ワルクさんは盾を持って防御に回ってください！　ミラネさんたちの間に立つようにして、鋏を突き込まれたら前に出て防御！」<br />
　その四人はセルトが要領がいいと認めている四人で、彼らならうまく防御をこなしてくれると判断した。<br />
「メレノさん、モイウさんは後ろに回り込んでください！　気を引く程度で構わないので、くれぐれも踏み込まないように！」<br />
　その二人はフットワークが軽く、囮役に適している。<br />
　的確に役割を割り振った後、他の者達にはそれぞれアルブラスへの連絡やつぶてを使った牽制を命じた。<br />
　セルト自身は敵の正面斜めの位置に立つ。そこなら急に突進されても避けられるし、戦場の様子がよく見える。<br />
「全員、くれぐれも気をつけて！　身の安全を優先してください！　敵が突進してきたら、陣形を崩していいのでとにかく回避してください！」<br />
　全員から了解する旨の返答が来て、敵もようやく茂みを破ったザリガニが開けた場所にその細い節足を這い出してきた。<br />
　セルトが号令を下す。<br />
「作戦開始です！」<br />
　セルトの命令通り、従者たちが動き出す。<br />
<br />
<br />
&nbsp;</p>]]>
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    <category>オリジナル『空の烙印』</category>
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    <pubDate>Sat, 23 Aug 2008 13:06:31 GMT</pubDate>
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  </item>

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